ブックヨミヨミの読書感想ぶんぶん

雑食系の読書感想文!

水城せとな 『窮鼠はチーズの夢を見る オールインワンエディション』 をヨミヨミ。

こんにちは!

ブックヨミヨミです。

 

本日は

水城せとな 著
『窮鼠はチーズの夢を見る』

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について書きます。

 

当書は前後編となる

『窮鼠はチーズの夢を見る』

『俎上の鯉は二度跳ねる』

2019年の番外編ハミングバード・ラプソディ』

全て網羅しているオールインワンエディション版。

(カラーイラストも複数付いて豪華版!!)
 
2020年6月5日に映画も公開されるようです。

大倉忠義さんが主人公の「大伴先輩」で

成田凌さんが後輩の「今ヶ瀬」か…

本の帯の大倉さんは先輩のイメージにぴったりだ。

YouTubeで映画のPR映像を見て

泣きそうになってしまいました。

 

そういえば、男性同士の恋愛を描いた映画で

有名なものがありますよね。

ブエノスアイレス、ブロークバックマウンテン、

覇王別姫とか…

覇王別姫は見ましたが、とてつもなく悲しい

お話でした。

男性同士の恋愛は悲恋になることが多いのね…。

 

この作品、初発表は2004年。

2020年現在では16年も前のものです。

なぜ、それが今、人気俳優で映像化されるのか。

それだけ、力のある良い作品なのです。

で、映画の公開日と同日に

この感想も公開することにしました。(笑)

 

後編の『俎上の鯉は二度跳ねる』を先に読んでいて、

その感想を既に書いています。

実は感想を書いて以降、『俎上の鯉は二度跳ねる』

読んでいませんでした。

気軽に読む気持ちになれなかったからです。

それほど、衝撃が大きかった。

 

今回このオールインワンエディション版で

やっと前後編通して読めました。

先にネタバレしていたので、

今回は落ち着いて読みました。

一部『俎上の鯉は二度跳ねる』の感想からも

再度掲載しますが、ご了承下さい。


簡単なあらすじは以下です。

 主人公の男性は、妻から依頼された浮気調査員として

 大学の後輩の男性に再会する。

 後輩から好きだったことを告げられ、

 脅されるかたちでキスだけの関係を持つことになる。

 主人公が気が付かないうちに妻に愛想をつかされ、

 離婚に至る。

 

 主人公は優柔不断な性格で、それを熟知している後輩

 のなりふり構わないアプローチに、主人公は絆され、

 事実上付き合うかたちとなっていく。


 後輩は主人公に何年も片思いし、愛しすぎていた。

 主人公は戸惑いながらも、後輩が尽くしてくれる

 日常に満たされた思いを感じている。


 当初はただ流され受け入れただけだったが、

 能動的に主人公から後輩を求めるようになり、

 そんな自分に当惑を覚える。


 そこに主人公に気のある女性が登場する。

 もともとノーマルな主人公はその女性に

 惹かれはじめる。


 そのことに気が付いた後輩は、

 いずれ主人公がその女性のもとに行くであろうと

 予測し、耐えきれずに自ら別れを切り出す。


 主人公はあっさり別れを受け入れるが、

 後に別れたことに傷ついている自分を自覚する。

 その傷ついた主人公を慰めた件の女性と交際すること

 になる。


 ある事件が起きたことで、主人公と後輩が

 再度顔を合わせることになる。

 いろいろな葛藤を乗り越え、主人公は後輩と

 共に生きて行く道を選択する。


結果としてはハッピーエンドだ。

ただ、能天気なハッピーエンドではない。

多くの不安と矛盾を抱えて、

それでも二人で生きて行く道を選び決意する。

 

端的に言うと、

壮絶な「痴話げんか」の末の「雨降って地固まる」。

(爆)

 

でも、「雨降って地固まる」の過程が本当に切ない。

雨どころか、土砂降り、洪水、嵐に津波

怒涛の展開だ。

恋することは本当にしんどいと思ってしまった。

 

後輩が主人公のことを、好きで好きで何年も

忘れられないで苦しんでいる様が痛々しい。

 

主人公を好きになった大学生の頃、

ゲイである後輩の思いがノーマルな主人公に

受け入れられる可能性は皆無だった。

 

後輩の主人公に対する気持ちを表すエピソードで、

主人公から黒ネコのライターをもらう時に

指にそっと触れるシーンがある。

「好きな人にふれたい」というささやかな望みが叶った

後輩がとてもいじらしかった。

この作品はセクシャルな描写がてんこ盛りだ。

だからこそ、私はこの片思い初期のプラトニックさが

際立って切なく感じた。

 

時が経ち、後輩は忘れられない大好きな人と再会する

チャンスを得る。

封じ込めた恋心に火が付き、後輩は主人公を肉体から

攻略していく。

後輩がいくら心を込めて好きだと言っても、

主人公には届かない。

主人公に恋心を解らせるための切羽詰まった行動だ。

後輩は何度も主人公の身体に自分の思いを刻み込む。

主人公は抵抗しつつも、受け入れていってしまう。

 

二人の身体でのコミュニケーションを克明に

描写している。

実際の恋愛において重要なことだ。

(諸々の事情から大っぴらにはしないが)

これをきちんと描写することで、

主人公の中で後輩に対して情がどのように

生まれてくるかが理解できる。

賛否両論あるだろうが、この作品では欠かせない

部分だと思う。

 

お互いに思い合っている状況になっても、

男性同士かつゲイとノーマルだと、

いろいろ複雑なことになってくる。

 

理解・信頼できずに傷つけあう。

未来のない関係だと悲観して、これ以上傷付け合う

ことを恐れて逃げ出してしまう。

 

そんな主人公と後輩の二人のやり取りや

それぞれの独白が秀逸だ。

心情やそこに至る経緯を語るセリフが

突き詰めた思考の先に出てくるものだと感じた。

この作品の特徴的な所だと思う。

 

『俎上の鯉は二度跳ねる』の感想でも書いたが、

以下の主人公の独白が胸に迫る。

 

 ー恋っていうのは  幸せになるために

  するものなんだと思っていたよ

 ー…とんだ子供じみた 夢想だったな

 ーこれが恋愛か? 本当に?

 ーこんな 体の芯から

  おしつぶされそうな痛みを

  抱えることが?

 ー足下から根こそぎ全部

  もっていかれるような

 ーほかの荷物は 

  何も持てなくなるような 

  苦しさが?

 ー冗談じゃない

  こんなものが恋愛なら

  もう二度としたくない

 ーこれが恋愛なら

 ー恋愛は 業だ 

 

どうしようもないほど誰かを好きになってしまった、

そんな経験があるなら、これらの言葉の重さが

胸にくると思います。

 

ここから先も『俎上の鯉は二度跳ねる』の感想らの

抜粋になりますが、これ以上の感想が書けそうに

なかったので、再掲することにしました。

良かったら『俎上の鯉は二度跳ねる』の感想も読んで

見てください。

 


主人公はノーマルな自分がゲイの後輩を

彼の納得の行くかたちで愛しているかを

疑問に感じている。


後輩はノーマルな主人公に負い目を感じ、

罪悪感や不安、嫉妬を払しょくできず、

途方もなくつらい思いをしている。


当作品での恋愛関係における大変さは、

同性同士の恋愛であることの難しさが

大きな要因だ。


しかし、

社会的にノーマルであると認められている

異性のパートナー同士でさえ、


社会的な常識に翻弄されていないだろうか?

お互いを理解できているだろうか?

相手の願いを叶えているのだろうか?


先に挙げた問いは通常の人間関係でも

問題になる部分だ。

人間関係においての普遍的な問題が、

恋愛だとより色濃く出てしまう。


恋愛は他者との濃密で深い関わりだ。

イヤというほど相手との違いを感じる。

 

それでも一緒にいるために、

必死で相手の理解を試み、自らを省みて

変化していかざる負えなくなる。

急速に自分が自分でなくなってしまう。


これ程、人生において人として変貌をとげる

イベントはあるだろうか?


生きている時間が長くなるにつれ、

愛する人も代替可能であることを学習する。

(本作品は代替不可な愛する人がテーマだが)

私の場合、好きな人を好きになり過ぎてしまう

傾向があり、一人のほうが何かと楽だと

気が付いてしまった。


だからと言って、恋愛を否定している訳ではない。

気持ちが高揚するような「熱い恋愛」だけではなく、

互いに静かに愛着を持って「慈しむ恋愛」だって

あることは知っている。


誰かを好きになることで、世界が変わる。

恋愛をしない人が多くなったと言われている昨今。

それでも願わくば、恋愛はおおいにしましょう!

と言いたい。


主人公と後輩は互いの全てをさらけ出し、

それを受け入れ慈しみ、

何度も壊れそうな関係を修復し、

共に生きて行くだろう未来を感じさせる。


それでいて、

終盤での主人公の独白にこんな言葉がある


ーお前は いずれ 投げ出すだろうな

 来週か 20年後か

 もっと早いか もっと遅いか

 ~

 それでもいいよ

 俺は お前の背中を見送る

 この恋の死を 俺は看取る

 ~

 俺にできるのは

 それくらいしかないから


ハッピーエンドにスパイスをかけ、

読者の心に爪痕を残す。


焼け落ちてしまいそうになるほど

身も心も愛し愛されたくなったら、

この『窮鼠はチーズの夢を見る』を

読んで見てはいかがでしょう?


人間詰まる所孤独だ。

それでも、

誰かに対する愛おしさを

いつも忘れない人生でありたい、

そう願っている。 

 

今回の感想は、書いた時期の違う感想文からの抜粋を

入れたりして、文全体がグダグダ感満載ですね(汗)。

でも、素敵な作品は感想を書きたい!

これらは人生を豊かにしてくれます。

 

そして、今回はなにより言いたい! 

命短し、恋せよ人間!!