ブックヨミヨミの読書感想ぶんぶん

雑食系の読書感想文!

雲田はるこ 『昭和元禄落語心中』をヨミヨミ。

こんにちわ!

ブックヨミヨミです。

 

今日は

雲田はるこ 著

昭和元禄落語心中

について書きます。

 

マンガです。

2018年10月からNHKでドラマが

放送されているようですね。

話題作として評判のようです。

残念ながら私はテレビを持っていないので

見れません(爆)

(テレビを持っていない理由は置いといて!)

 

はじめてこの作品を知ったのはアニメでした。

ネットの無料配信でたまたま数話を見たのですが、

あまりの素晴らしさに心をがっちり握られてしまいました。

 

アニメの中の落語「死神」が本当に秀逸でした。

数日間は呪いのように主人公の妖艶で孤独な菊比古さんが

頭の中から出て行ってくれませんでした。

耐えられずに本屋で全巻大人買いをしてしまいました。

 

この作品は数々の賞を受賞しているようです。

受賞は以下です。

 第17回2013年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門最優秀賞

 第38回(2014年度)講談社漫画賞一般部門

 第21回手塚治虫文化省新生賞

 

作者の雲田はるこさんはデビューが2008年です。

雲田さんのホームグラウンドはBL(ボーイズラブ)のようです。

最新刊の「新宿ラッキーホール」読みました。

「昭和~」とは想像がつかないほどがっつりBLでした。

当然「新宿~」は人を選ぶ作品とは思いますが、

このふり幅で書けるところが作家としての手腕なのでしょう。

 

色恋ほど人がどうしようもなくなることはない。

男女間であろうと同性間であろうと、

恋をした相手を大切に思い、乞うる気持ちには違いが無い。

この点は想像力豊かな読者なら同意するのではないでしょうか。

魅力的な人間像を作り上げ、その登場人物に切ない恋をさせる。

読者は登場人物に惹かれ、物語にのめり込んでいく。

 

雲田さんは作家歴は10年ほどです。

絵は正直私にとっては上手いと思えず、好みでもありませんでした。

しかし、「昭和~」にはのめり込まされてしまいました。

芸に生き、孤独で大きな負い目を背負い、

ストイックでいようとしながら、

それでも情に勝てなかった一人の男の一生を描いています。

作家として才能があるとは、こんなことなんだなと思わされる

作品です。

 

主人公は落語の名人、八代目有楽亭八雲。

彼の生きた昭和の戦前から戦後の経済成長期、

バブル期とその衰退までの期間を鮮やかに描いています。

 

主人公の八代目八雲はストイックで気難しい

そして美しい初老の天才落語家として登場します。

八雲は気まぐれで出所したてのやくざ上がりの男を弟子に取ります。

この男がヘマをして八雲が激怒し破門します。

弟子は泣きながら許しを乞いますが、

その時に八雲の若いころの話を聞かせます。

 

1巻の出だしとしてはこんな感じです。

先ほども書きましたが、人物の書き方がとても魅力的。

弟子は与太郎→三代目助六→九代目八雲となっていきます。

元気で人が良くて人懐こい彼がどんどん芸を磨いて成長して

最終的には師匠を継ぐ立場にまでなる。

芸の深みにハマることで闇を垣間見ることを表現する箇所は

物語に奥行きを与える部分だと思いました。

 

八雲の兄弟弟子の二代目助六も魅力的な人物です。

あっけらかんとして明るくて女好きでだらしない。

でも、落語は天才肌で人気もあった。

若いころの八雲は菊比古という芸名だった。

菊比古と助六は兄弟のような間柄で、

互いに持っていないものにコンプレックスを抱いている。

まだ若く何物にもなりきれない菊比古の危うさに対比するような

助六の色彩の濃さがその後の行く末が判ると悲しくなります。

 

そして、ファムファタールとして登場するみよ吉。

七代目八雲(菊比古と二代目助六の師匠)の愛人、

菊比古の恋人、二代目助六の妻となる女性。

書いてて、すげーな(笑)。

 

彼女の菊比古への執着が取返しがつかない破滅を招く。

菊比古が二代目助六とみよ吉と子供を東京に連れ帰る為に

迎えにくるのだが、みよ吉はあくまで恋人として自分を迎え

に来たと思う。

泣きながら菊比古にすがる彼女の涙を

思わずなめてしまう菊比古に情と業の深さ。

(ここが私としては菊比古にひかれてしまう箇所でもある。)

その直後にみよ吉と二代目助六は命を落としてしまう。

 

登場人物はみんな、どうしようもなくダメなところがある。

そんなところがたまらなくいいのである。

愛おしい人々として物語の中で生きて死んでいく。

 

そんな登場人物の人生と

人々を生き生きと語る落語の世界を

重ね合わせたこの話はたくさんの魅力にあふれている。

それぞれの想像力をさらに膨らませる何かがある。

 

雲田さん、

ほんとに素晴らしい作品です。

 

私は、

七代目八雲が亡くなり、二代目助六とみよ吉が亡くなった後、

泣きながら八代目八雲を引き受ける承諾をした菊比古が不憫でした。

二代目助六とみよ吉が亡くなったのは自分のせいで、

生涯自分を許さないだろうとの覚悟にも思えたからです。

 

しかしそんな悲愴な意に反し、

結局のところ、八代目八雲は幸せな人生だったはずです。

周りの人はみな彼を尊敬し、弟子を持ち、

家族に囲まれて息を引き取る。

そして、彼の生きた証は次世代に引き継がれていく。

 

人間って本当に愛おしい

そう思わされる作品です。